「同じようにフルタイムで働いているのに、正社員と契約社員とで老後にもらえる年金が違うなんて、不公平じゃない?」
これは、私の知人が転職を考えていた時にぽつりとこぼした言葉です。たしかに、仕事内容がほとんど変わらないのに、雇用形態の違いだけで将来受け取れる年金額に差が出るとしたら、それは多くの人にとって大きな関心事になるでしょう。
結論から先にお伝えすると、正社員と契約社員の間で「厚生年金」の制度自体に大きな違いはありません。ですが、老後にもらえる年金額に差が出るかどうかとなると、それは“雇用形態の違い”というより、“働き方の実態”に左右される部分が大きいのです。
ここで少し丁寧に解きほぐしてみましょう。
まず、厚生年金とは何か。
厚生年金保険は、企業に勤める労働者が加入する公的年金制度です。加入すると、将来老齢年金として年金を受け取れるほか、障害年金や遺族年金といった保障もついてきます。保険料は、労働者と企業が折半して支払っており、国民年金(自営業者などが加入)よりも手厚い内容になっているのが特徴です。
そして、厚生年金の年金額は、基本的に以下の2つで決まります。
-
加入期間(何年、何ヶ月保険料を納めていたか)
-
報酬額(標準報酬月額・賞与額)
つまり、長く、そして高い給与で働いていればいるほど、将来もらえる年金額は大きくなります。
ここで重要なのが、正社員も契約社員も、これらの条件を満たせば同じく厚生年金に加入できるという点です。実際、契約社員でも週の所定労働時間が正社員の4分の3以上であれば、基本的に厚生年金の対象になります。2016年以降は、短時間労働者であっても一定の条件(従業員数が多い企業で週20時間以上など)を満たせば加入義務が生じています。
それならば、なぜ正社員と契約社員で年金額に差が出るのか。
その答えは、「実態の差」にあります。
たとえば、正社員は基本的に無期雇用であり、昇給や賞与、昇進といったキャリアの継続性があります。一方、契約社員は有期契約であることが多く、数年単位で契約が終了する可能性があります。また、賞与の支給がなかったり、契約ごとに給与水準が変わったりすることもあります。
仮に、同じ会社で10年間働いたとしても、正社員はその間ずっと厚生年金に加入していたのに対し、契約社員は契約が切れた期間に無職となり、国民年金に切り替わっていた……というケースも少なくありません。この“つなぎ目”こそが、老後の年金額に差を生む要因になります。
また、報酬額も大きなポイントです。
厚生年金の年金額は、「標準報酬月額」という報酬ベースで計算されます。これは月給に加えて、賞与や手当なども反映されるため、ボーナスの有無や昇給ペースが違えば、最終的に支給される年金額にも違いが生じます。
例えば月給25万円でボーナス年2回(合計100万円)の正社員と、月給25万円で賞与なしの契約社員とでは、1年あたりの報酬額が100万円異なります。これが20年、30年と積み重なれば、受け取れる年金額にして数万円〜数十万円/年という差になる可能性があるのです。
もちろん、契約社員としても長く安定的に同じ企業で働き、昇給や賞与がある場合であれば、その差はほとんどないか、むしろ正社員より手取りが高いケースさえあり得ます。
では、もし契約社員として働く場合に「将来の年金額」を意識して準備するなら、どのような工夫ができるでしょうか?
一つは、厚生年金の加入期間をなるべく長く保つこと。契約が終了しても、すぐに次の就職先を見つけたり、短時間でも厚生年金に加入できる条件を満たすよう調整したりすることで、空白期間を最小限に抑えることができます。
もう一つは、iDeCo(個人型確定拠出年金)などを活用して自分自身で年金を積み立てていくこと。特に契約社員や非正規雇用者の場合、将来の収入の安定性が読めないからこそ、自分でできる備えが大きな安心感につながります。
さらに、年金定期便を確認し、自分が将来どれくらい受け取れるかを把握しておくことも大切です。意外と見落とされがちですが、これを読むだけで「今のままだと足りないかも」と感じる方も少なくありません。
そして、最後にもう一度伝えたいのは、「雇用形態だけでは、年金の差は決まらない」ということです。
たしかに正社員は安定していて、制度上も優遇されていることが多いのは事実です。でも、働き方や生き方が多様化する今、契約社員として自分らしいキャリアを歩みながら、しっかりと制度を理解して備えることも十分可能です。
つまり、年金制度に“振り回される”のではなく、“うまく活用する”視点がこれからはより重要になってくるということです。
目先の条件だけでなく、10年後、20年後を見据えて、自分にとって最も納得のいく働き方を選びたい。そのためのヒントとして、この記事が少しでもお役に立てたなら幸いです。
コメント