「えっ、年金って複数もらえるの?」
この言葉、一度は頭をよぎったことがあるのではないでしょうか。実は、条件さえ整えば、年金を2つ以上同時に受け取ることが可能なんです。しかし、その仕組みは複雑で、知らないがために受給額を減らしてしまっている方も少なくありません。
私がファイナンシャルプランナーとして活動する中で、最も多く受ける質問の一つが「複数の年金はもらえるの?」というものです。ある60代の女性は、夫の死後に初めて「遺族年金」と「自分の老齢年金」の両方を受け取れることを知り、「もっと早く知っていれば…」と悔やんでいました。
今回は、そんな「2つ以上の年金」について、わかりやすく解説していきます。この記事を読めば、あなたやご家族が受け取れる可能性のある年金の組み合わせと、その申請方法がわかるはずです。老後の生活を少しでも豊かにするために、ぜひ最後までお付き合いください。
知っておくべき基本の「年金の仕組み」
まず始めに、複数の年金受給について理解するための基礎知識を確認しておきましょう。日本の年金制度は、大きく分けて「公的年金」と「私的年金」の2種類があります。
公的年金には、全国民が加入する「国民年金(基礎年金)」と、会社員や公務員が加入する「厚生年金」があります。さらに、亡くなった方の配偶者や子どもが受け取る「遺族年金」、病気やケガで障害が残った場合に受け取る「障害年金」も公的年金の一種です。
一方、私的年金には「企業年金」や個人で加入する「iDeCo(個人型確定拠出年金)」などがあります。
「でも、複数の年金を受け取るなんて、特別な人だけでしょ?」
いいえ、そんなことはありません。実は多くの方が知らないだけで、条件を満たせば複数の年金を受け取れる可能性は十分にあるのです。例えば、会社員として働いていた方が配偶者を亡くした場合、自分の「老齢厚生年金」と配偶者の「遺族年金」の両方を受け取れるケースがあります。
ただし、ここで大切なのは、すべての年金が満額もらえるわけではないということ。公的年金同士の場合、「併給調整」という制度によって、金額が調整されることがほとんどなのです。
「じゃあ、結局いくらもらえるの?」
その疑問にお答えするために、具体的なケースごとに解説していきましょう。
2つ以上の年金を受け取れる主なケース
ケース1:老齢厚生年金+遺族年金 – 多くの方が直面する状況
最も一般的なのが、自分の老齢厚生年金と、亡くなった配偶者の遺族年金を同時に受給するケースです。
私の相談者に60代の女性がいました。長年パートとして働いていた彼女は、夫を亡くした後、自分の老齢厚生年金(月5万円)と夫の遺族年金(月10万円)の両方を受け取れることがわかりました。しかし、年金事務所での手続きの際、「併給調整」があることを初めて知ったそうです。
「最初は『両方合わせて月15万円になる』と思っていたんです。でも実際には、老齢年金が3万円に減額されて、結局月13万円になりました。少し期待外れでしたが、それでも一つだけより多くもらえて助かっています」と彼女は語ります。
このケースでポイントとなるのは、遺族年金が優先され、老齢年金は一部または全額が停止されることが多いということ。一般的には、老齢厚生年金の報酬比例部分と遺族厚生年金を比較して、高い方の全額と低い方の2分の1を受け取ることができます(ただし、老齢厚生年金の定額部分は支給停止になります)。
「計算が複雑すぎて、自分では判断できない…」
そう思われるのは当然です。実際の計算は非常に複雑で、年金事務所でのシミュレーションが必要になります。しかし、基本的な考え方として「どちらか一方だけより、調整後の金額の方が必ず高くなる」ということは覚えておいてください。
ケース2:老齢基礎年金+障害年金 – 予期せぬ障害に備える
次に多いのが、国民年金(老齢基礎年金)を受給しながら、事故や病気で障害年金の対象になったケースです。
50代の元建設作業員の男性は、仕事中の事故で障害等級2級に認定され、障害基礎年金(月約8万円)を受け取り始めました。「事故で働けなくなり、最初は生活が不安でした。でも障害年金のおかげで何とか生活できています。さらに65歳からは老齢基礎年金(満額月約6.5万円)も加算され、合計月14.5万円になる予定です。収入が安定することで、高額な医療費の負担も少し楽になりそうです」と前向きに話してくれました。
このケースでは、障害年金と老齢基礎年金は原則として併給可能です。ただし、障害年金が優先され、老齢年金は満額支給されない場合もあるため、具体的な金額は年金事務所で確認する必要があります。
「障害年金は申請しないともらえないって本当?」
はい、その通りです。障害年金は自動的に支給されるものではなく、必ず自分で申請する必要があります。しかも、初診日から1年6ヶ月経過後に申請するのが基本ですが、症状が固定していれば早めに申請することも可能です。障害の状態によって等級が1級から3級まであり、等級によって受給額が変わってきます。
ケース3:老齢厚生年金+企業年金(私的年金) – サラリーマンの強み
会社員として長く勤務していた方に多いのが、公的な老齢厚生年金と、企業が提供する私的年金を併給するケースです。
70代の元サラリーマン男性は、「定年後、厚生年金(月15万円)に加え、勤務していた会社の企業年金(月5万円)も受け取れるようになりました。合計月20万円で、老後の生活にゆとりができました。特に、私的年金は税金の控除対象になるので、手取りが増えて助かっています」と話します。
このケースでは、公的年金と私的年金の間に調整はなく、両方とも満額受け取ることができます。つまり、会社員として働いていた期間が長ければ長いほど、老後の年金額が増える可能性が高いのです。
「企業年金って、どんな会社でも必ずあるの?」
いいえ、すべての会社にあるわけではありません。企業年金には「確定給付企業年金(DB)」と「確定拠出年金(DC)」の2種類があり、主に大企業や中堅企業で導入されています。最近では中小企業でも「iDeCo(個人型確定拠出年金)」や「小規模企業共済」などの制度を活用して、従業員の老後資金を支援する動きが広がっています。
自分が加入していた企業年金については、退職時の書類や「ねんきん定期便」で確認できますが、不明な場合は企業年金連合会に問い合わせることも可能です。
併給時の調整ルール – ここが複雑なポイント
複数の年金を受け取る際に最も混乱するのが「併給調整」のルールです。どのような調整が行われるのか、主なパターンを見ていきましょう。
パターン1:「遺族年金+老齢年金」の調整方法
配偶者を亡くした方が、自分の老齢年金と遺族年金を受け取る場合、次のような調整が行われます。
例えば、遺族年金が月10万円、老齢年金が月6万円の場合、単純に足して16万円になるわけではありません。基本的には「高い方の年金(この場合は遺族年金の10万円)」が優先され、「低い方の年金(この場合は老齢年金の6万円)」は一部または全額が支給停止になることがあります。
「計算が複雑すぎて、自分では判断できない…」と思われるのは当然です。実際、調整後の金額は個人の年金加入履歴や報酬によって大きく変わってきます。一般的には、老齢厚生年金の報酬比例部分と遺族厚生年金を比較して、高い方の全額と低い方の2分の1を受け取れることが多いです。
「先日、60代の女性から相談を受けました。夫を亡くし、『自分の老齢年金をもらうべきか、夫の遺族年金をもらうべきか、迷っている』とのこと。実際に計算してみると、両方申請して調整後の金額をもらう方が、どちらか一方だけより1万5千円ほど多くなることがわかりました。『知らなければ損するところだった』と、彼女は驚いていましたね」
このような調整は非常に複雑なため、必ず年金事務所でシミュレーションを依頼することをお勧めします。
パターン2:「障害年金+老齢年金」の調整
障害年金と老齢年金の場合は、原則として併給可能ですが、こちらにも調整が発生することがあります。
例えば、障害基礎年金を受給している方が65歳になり、老齢基礎年金の受給資格を得た場合、両方を合わせて受給することができます。ただし、保険料の納付状況によっては、老齢基礎年金が減額されることもあります。
「私の知人は、40代で病気になり障害厚生年金2級(月約15万円)を受給していました。65歳になったとき、自動的に老齢厚生年金に切り替わるのかと思っていたところ、年金事務所から『どちらか選択できる』と言われたそうです。計算してみると、障害年金の方が金額が高かったため、そのまま障害年金を継続することにしました。知らなければ損するところでした」
障害年金と老齢年金の選択では、一般的に金額が高い方を選ぶことが多いですが、将来の昇給や税金の影響も考慮して判断する必要があります。特に、障害年金には非課税の部分があるため、同じ金額なら障害年金の方が手取りが多くなることが多いです。
パターン3:「公的年金+私的年金」は調整なし
最もシンプルなのが、公的年金と私的年金の組み合わせです。この場合、併給調整はなく、両方とも満額受け取ることができます。
例えば、老齢厚生年金と企業年金、iDeCoなどの私的年金は、それぞれ独立して受給できます。これは、私的年金が公的年金を補完する目的で設計されているためです。
「先日、65歳になった元銀行員の方から相談を受けました。老齢厚生年金(月17万円)に加えて、企業年金(月8万円)とiDeCo(月3万円)があり、合計月28万円の年金収入があるとのこと。『こんなにもらっていいの?』と心配されていましたが、これは全く問題ありません。むしろ、若いうちから計画的に準備された素晴らしい例です」
このように、公的年金だけでなく私的年金も活用することで、老後の収入を大幅に増やすことができます。特に、会社員や公務員として働いていた方は、企業年金の有無を必ず確認しておきましょう。
注意点&手続きの流れ – 実践編
複数の年金を受け取るためには、いくつかの注意点と適切な手続きが必要です。実際に多くの方が躓きやすいポイントをご紹介します。
必ず年金事務所に相談を
最も重要なのが、自分がどの年金を併給できるかを正確に把握することです。これは、日本年金機構や年金事務所での相談が必須になります。
「70代の男性から『遺族年金の申請をしなかった』という相談を受けたことがあります。奥様が亡くなった際、『自分は厚生年金をもらっているから遺族年金はもらえないだろう』と思い込み、申請しなかったそうです。実際には調整はあるものの、遺族年金も受け取れる可能性が高かったのですが、申請期限(5年)を過ぎてしまっていました。非常に残念なケースでした」
このような事態を避けるためにも、配偶者が亡くなった時や障害が発生した時など、生活環境に変化があった際には、必ず年金事務所に相談することをお勧めします。
相談の際には、以下の書類を準備しておくと円滑に進みます。
- 年金手帳または基礎年金番号通知書
- 本人確認書類(運転免許証など)
- 戸籍謄本(遺族年金の場合)
- 診断書(障害年金の場合)
「年金事務所は混んでいて大変…」という声もよく聞きますが、最近では事前予約制を導入している窓口も増えています。また、電話での予約相談も可能ですので、ぜひ活用してください。
税金・社会保険料への影響も考慮を
複数の年金を受け取ることで、収入が増えるのは喜ばしいことですが、同時に税金や社会保険料への影響も考慮する必要があります。
例えば、年金収入が年間108万円を超えると所得税がかかり始め、年間158万円を超えると住民税も課税対象になります。また、年金収入が増えると介護保険料や後期高齢者医療保険料も上がる可能性があります。
「65歳の女性から『年金が増えたのに手取りが思ったほど増えない』という相談を受けました。遺族年金と老齢年金を併給するようになり、年金総額は月15万円(年間180万円)になったものの、新たに住民税が課税され、介護保険料も上がったため、実質的な増加額は予想より少なかったとのこと。税金や保険料の影響も含めた総合的な判断が必要です」
特に注意が必要なのが、年金収入が年200万円を超えるケースです。この場合、介護保険料の所得段階が上がり、自己負担が増加することがあります。複数の年金を受け取る際には、このような税金や社会保険料への影響も含めて、トータルで考えることが大切です。
「ねんきん定期便」を活用しよう
将来受け取れる年金の見込み額を知るには、日本年金機構から送られてくる「ねんきん定期便」が非常に役立ちます。
「ねんきん定期便」には、これまでの加入実績や将来受け取れる年金の見込み額が記載されています。特に50歳以上の方には、より詳細な情報が送られてくるため、老後の生活設計に役立てることができます。
「50代の夫婦から『老後の生活が不安』という相談を受けました。お二人の『ねんきん定期便』を確認したところ、夫が老齢厚生年金(見込み月18万円)、妻が老齢基礎年金(見込み月6万円)を受け取れることがわかりました。また、夫の会社には企業年金もあり、退職時に約600万円の一時金か、月3万円の年金を選択できることも判明。これらの情報をもとに、老後の収入と支出のバランスを具体的に計画することができました」
「ねんきん定期便」を紛失した場合でも、「ねんきんネット」というオンラインサービスで、いつでも自分の年金情報を確認することができます。スマートフォンやパソコンから簡単にアクセスできるので、ぜひ活用してみてください。
年金併給の実例 – 実際のケーススタディ
ここからは、実際に複数の年金を受給している方々の具体的な事例をご紹介します。それぞれのケースから学べることは多いはずです。
ケース1:遺族年金と老齢年金の併給で生活が安定
64歳の女性Aさんは、2年前に夫を亡くしました。夫は長年会社員として働いていたため、Aさんは遺族厚生年金を受給することになりました。また、Aさん自身も派遣社員として働いていたため、63歳から特別支給の老齢厚生年金を受給していました。
「夫が亡くなった当初は、経済的な不安が大きかったです。でも年金事務所に相談したところ、夫の遺族年金と自分の老齢年金の両方を受け取れることがわかりました。ただ、満額ではなく調整があると説明されました」
Aさんの場合、調整前は老齢厚生年金が月8万円、遺族厚生年金が月12万円でしたが、併給調整後は老齢厚生年金が月4万円、遺族厚生年金が月12万円となり、合計月16万円を受給しています。
「調整後も月16万円あれば、質素ながらも一人暮らしの生活は維持できます。また、夫の死亡保険金で住宅ローンを完済できたのも大きかったですね。年金の仕組みは複雑ですが、きちんと相談して良かったと思います」
このケースからわかるのは、遺族年金と老齢年金の併給は可能だが調整があること、そして早めに年金事務所に相談することの重要性です。
ケース2:障害年金と老齢年金で医療費の負担も軽減
55歳の男性Bさんは、45歳の時に脳梗塞で倒れ、右半身に麻痺が残りました。障害等級2級と認定され、障害厚生年金(月約15万円)を受給しています。
「突然の病気で働けなくなり、最初は本当に不安でした。幸い、会社の健康保険に加入していたため、障害厚生年金を受給できることになりました。また、障害者手帳も取得したことで、医療費や税金の負担も軽減されています」
Bさんは現在55歳ですが、65歳になると老齢厚生年金も受給できる年齢になります。
「年金事務所の方に、65歳になったらどうなるか相談したところ、『障害年金と老齢年金を比較して、金額が高い方を選択できる』と教えてもらいました。現時点では障害年金の方が金額が高い見込みなので、そのまま障害年金を継続する予定です。ただ、障害年金には非課税部分があるため、同じ金額なら障害年金の方が手取りが多くなると聞いています」
このケースから学べるのは、障害年金と老齢年金の選択においては、単純な金額だけでなく、税金面も含めて総合的に判断する必要があるということです。
ケース3:企業年金のおかげで豊かな老後生活を実現
72歳の男性Cさんは、大手メーカーに38年間勤務した後、60歳で定年退職しました。現在は老齢厚生年金(月18万円)に加えて、企業年金(月7万円)も受給しています。
「長年勤めた会社には確定給付企業年金があり、退職時に『一時金か年金か選べる』と言われました。税金面や将来の生活を考えて年金を選択しましたが、これが正解でした。毎月安定した収入があるので、老後の生活も余裕を持って過ごせています」
さらにCさんは、50代の頃から個人型確定拠出年金(iDeCo)にも加入していました。
「会社の年金だけでなく、自分でもiDeCoを活用して老後に備えました。税制優遇もあるので、積極的に活用すべきだと思います。現在はiDeCoからも月3万円ほど受給しているので、年金収入は合計月28万円。妻の基礎年金と合わせると、夫婦で月35万円ほどの収入があります。趣味の旅行や孫へのプレゼントなど、ある程度自由にお金を使える老後を送れています」
このケースから学べるのは、公的年金だけでなく企業年金や個人年金もフル活用することで、より豊かな老後生活を実現できるということです。特に現役時代から計画的に準備することの重要性が伝わってきます。
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