ねんきん定期便だけでは見えない真実〜年金の手取り額が教えてくれる老後の姿〜
郵便受けにねんきん定期便が届いた日のこと。封を開け、将来受け取れる年金額を見て、あなたは安心したでしょうか、それとも不安を感じたでしょうか?
実はその数字、あなたが実際に手にする金額ではないのです。
「えっ、そうなの?」と驚かれるかもしれませんね。実際、多くの方がねんきん定期便に記載された金額をそのまま受け取れると思い込んでいます。ねんきん定期便に記載があるのは額面の年金収入であり、実際に使える「手取り額」はそこから所得税や住民税、社会保険料が差し引かれたものなのです。
先日、定年を迎えた叔父から興味深い話を聞きました。「年金額面240万円と聞いていたから、月に20万円使えると思っていたよ。でも実際に振り込まれたのは月17万円ほど。年間で36万円も少ない!老後の計画を見直さなきゃいけなくなったよ」と。
この記事では、年金からどのような金額が差し引かれ、実際にいくら手元に残るのか、計算方法や具体例を詳しく解説します。将来の生活設計に役立つ情報が満載ですので、ぜひ最後までお読みください。
年金の手取り額とは?支給額との違い
年金の「支給額」と「手取り額」。この二つの言葉の違いをしっかり理解することが、老後の生活設計の第一歩です。
年金の決定通知書に記載されている「年金支払額(支給額)」は、税金や社会保険料が差し引かれる前の年金額です。一方、「控除後振込額」には、年金支払額から税金や社会保険料が差し引かれた後の手取り額が記載されています。
例えば、年金の支給額が月20万円(年間240万円)だとしても、実際に口座に振り込まれる金額はそれより少なくなります。これは現役時代の給与と同じ仕組みですね。給与明細に書かれた総支給額から様々な控除が引かれ、実際に振り込まれる金額は減っているはずです。
年金も同じなのです。驚くべきことに、額面年金収入300万円の手取り額は、1999年に290万円だったのが、2008年は265万円に減り、2023年はなんと253万円にまで減っています。24年間で金額では37万円、率して12%以上も減少しているのです。
このように年々手取り額が減少している背景には、社会保険料の上昇や税制改正などがあります。将来の生活設計を考える上では、この現実をしっかりと受け止め、準備を進める必要があるでしょう。
年金からどんな金額が差し引かれるの?
では、年金からはどのような金額が差し引かれるのでしょうか。主に以下の項目が挙げられます。
- 所得税と復興特別所得税
年金も所得の一部とみなされ、所得税が課税されます。課税対象となるのは、年間の年金収入から公的年金等控除額を差し引いた金額です。また、東日本大震災からの復興のための復興特別所得税も所得税と合わせて徴収されます。
65歳未満の方は年金収入が108万円以上、65歳以上の方は158万円以上になると所得税がかかることになります。ただし、これは年金収入のみの場合であり、他に所得がある場合はその所得も合わせて課税の対象となります。
- 住民税
お住まいの自治体によって課税される税金です。前年の所得に基づいて計算され、年金から特別徴収(天引き)される場合があります。基本的に前年の所得に基づいて計算されるため、年金生活1年目は会社員時代の所得に基づいて住民税が計算されることになります。
- 介護保険料
65歳以上で、一定の所得がある場合に徴収されます。保険料は自治体によって異なりますが、年金から介護保険料が天引きされるのは65歳以上の年金受給者で、年間の受給額が18万円以上の人です。
- 国民健康保険料(または後期高齢者医療保険料)
75歳未満の方は国民健康保険に、75歳以上の方は後期高齢者医療制度に加入することになります。これらの保険料も年金から特別徴収されることがあります。75歳未満が支払う国民健康保険料には、基礎分保険料と支援金分保険料があり、それぞれに、所得に応じて負担する「所得割」と加入者全員が一律で負担する「均等割」があります。
これらの項目が差し引かれた後の金額が、実際に手元に残る「手取り額」となります。つまり、手取り額の計算式は次のようになります。
手取り額 = 年金の支給額 - (所得税 + 復興特別所得税 + 住民税 + 介護保険料 + 国民健康保険料または後期高齢者医療保険料)
年金の手取り額の計算方法
では、具体的にどのように年金の手取り額を計算するのか、ステップを追って見ていきましょう。
ステップ1:年間の年金収入額を確認する
まずは、年間の年金収入額を確認します。これは年金証書や年金振込通知書などで確認することができます。あるいは、「ねんきん定期便」や「ねんきんネット」でも将来の年金額の見込みを知ることができます。
ステップ2:公的年金等控除額を計算する
年金に対する所得税の計算では、「公的年金等控除」という特別な控除があります。この控除額は、年齢と年金収入額によって異なります。
例えば、65歳以上で年金収入が330万円以下の場合、公的年金等控除額は110万円となります。一方、65歳未満で年金収入が330万円以下の場合、公的年金等控除額は70万円となります。
厚生年金や国民年金からの年金収入に対して、65歳以上なら収入330万円未満で110万円が控除されるわけですね。例えば、65歳以上で年金収入が240万円の場合、公的年金等控除額は110万円となります。
ステップ3:課税所得を計算する
次に、課税所得を計算します。基本的な計算式は以下の通りです。
課税所得 = 年金収入 - 公的年金等控除 - 基礎控除 - その他の控除(社会保険料控除、配偶者控除など)
例えば、65歳以上で年金収入が240万円、公的年金等控除が110万円、基礎控除が48万円、その他の控除がない場合、課税所得は次のようになります。
240万円 - 110万円 - 48万円 = 82万円
ステップ4:所得税と復興特別所得税を計算する
課税所得額に所得税率をかけて所得税額を計算します。所得税率は課税所得額によって5%〜45%まで段階的に上がります。
例えば、課税所得が82万円の場合、所得税率は5%となります。 所得税額 = 82万円 × 5% = 4.1万円
また、復興特別所得税は所得税額の2.1%となります。 復興特別所得税 = 4.1万円 × 2.1% = 約0.09万円
ステップ5:住民税を計算する
住民税は、所得割と均等割から成り立っています。所得割は課税所得額に10%の税率をかけて計算します。均等割は自治体によって異なりますが、一般的には年間5,000円程度です。
住民税(所得割)= 82万円 × 10% = 8.2万円 住民税(均等割)= 5,000円 住民税の合計 = 8.2万円 + 0.5万円 = 8.7万円
ステップ6:介護保険料を確認する
介護保険料は自治体によって異なりますが、一般的には年間6〜8万円程度です。例えば、年間6万円と仮定します。
ステップ7:国民健康保険料(または後期高齢者医療保険料)を確認する
これも自治体によって異なりますが、保険料は都道府県ごとの条例によって定められており、「所得割」「均等割」が存在します。
例えば、国民健康保険料が年間12万円と仮定します。
ステップ8:手取り額を計算する
最後に、年金の支給額から上記で計算した金額を差し引いて、手取り額を計算します。
手取り額 = 240万円 -(4.1万円 + 0.09万円 + 8.7万円 + 6万円 + 12万円) = 240万円 - 30.89万円 ≒ 209万円(年間)
つまり、年金の支給額が年間240万円(月20万円)であっても、実際の手取り額は年間約209万円(月約17.4万円)になるということです。約31万円(約13%)が差し引かれることになります。
ただし、この計算はあくまで例であり、実際の控除額は個々の状況(扶養家族の有無、他の所得の有無など)や住んでいる自治体によって異なります。より正確な手取り額を知りたい場合は、お住まいの自治体の税務課や年金事務所に相談することをおすすめします。
具体的な事例で見る年金の手取り額
続いて、具体的な事例を通して年金の手取り額を見ていきましょう。年金額や家族構成によって、手取り額がどのように変わるのかを確認します。
事例1:単身世帯、年金収入200万円の場合
まず、65歳以上の単身世帯で、年金収入が年間200万円のケースを考えてみましょう。この場合、手取り額はどうなるでしょうか。
年金収入:200万円 公的年金等控除(65歳以上、収入200万円の場合):110万円 課税所得:200万円 - 110万円 - 48万円(基礎控除)= 42万円 所得税・復興特別所得税:約2.1万円 住民税:約4.2万円 介護保険料:約6万円(自治体により異なる) 国民健康保険料:約8万円(自治体により異なる)
手取り額:200万円 -(2.1万円 + 4.2万円 + 6万円 + 8万円)≒ 180万円(年間)
月額に換算すると約15万円となります。年金収入の約10%が各種税金や保険料として差し引かれる計算になります。
単身世帯では、基礎控除以外の控除(配偶者控除や扶養控除など)を適用できないことが多いため、夫婦世帯に比べると税負担が重くなる傾向があります。
事例2:夫婦世帯、年金収入合計300万円の場合
次に、65歳以上の夫婦世帯で、年金収入が合計300万円(夫200万円、妻100万円)のケースを考えてみましょう。
【夫の場合】 年金収入:200万円 公的年金等控除:110万円 課税所得:200万円 - 110万円 - 48万円(基礎控除)- 38万円(配偶者控除)= 4万円 所得税・復興特別所得税:約0.2万円 住民税:約0.4万円(所得割)+ 0.5万円(均等割)= 0.9万円 介護保険料:約6万円 国民健康保険料:約7万円
【妻の場合】 年金収入:100万円 公的年金等控除:110万円(収入額を上回るため、課税所得は0円) 所得税・復興特別所得税:0円 住民税:0円 介護保険料:約4万円 国民健康保険料:約5万円
夫婦合計の手取り額:300万円 -(0.2万円 + 0.9万円 + 6万円 + 7万円 + 4万円 + 5万円)≒ 277万円(年間)
月額に換算すると約23万円となります。夫婦世帯の場合、配偶者控除や社会保険料の違いなどにより、単身世帯に比べて税負担が軽くなることがあります。この例では、年金収入の約8%が差し引かれる計算になっています。
ただし、所得税や住民税は累進課税制度を採用しているため、収入が増えるほど税率も上がります。そのため、年金収入が多い場合は、差し引かれる割合も高くなる傾向があります。
夫婦のシミュレーションでは、世帯の年金収入が増えるほど配偶者の年金収入も増やしています。一般的なシミュレーションでは、夫の年金額だけを上げて妻の年金額が90万円ほどで固定されますが、それは計算を簡単にするためです。現実には、夫婦それぞれの年金額が世帯の収入に影響します。
事例3:厚生年金の平均受給額の場合
次に、厚生年金の平均受給額を受け取る場合の手取り額を見てみましょう。厚生労働省の「厚生年金保険・国民年金事業の概況」によると、厚生年金第1号受給権者(民間企業のサラリーマンだった人)の平均年金月額は約14.4万円です。これは国民年金(老齢基礎年金)を含めた金額です。
年間に換算すると約173万円になります。67歳の単身世帯で、東京都渋谷区在住、他に収入がないケースを想定すると、手取り額は次のようになります。
公的年金等控除110万円を差し引きすると、雑所得は63万円となります。基礎控除48万円を差し引くと、課税所得は15万円になります。
所得税・復興特別所得税:約0.8万円 住民税:約1.5万円 介護保険料:約5万円 国民健康保険料:約8万円
手取り額:173万円 -(0.8万円 + 1.5万円 + 5万円 + 8万円)≒ 158万円(年間)
月額に換算すると約13.1万円となります。厚生年金の平均受給額でも、実際の手取り額は13万円を下回ることもあるのです。
年金の手取り額を増やすための工夫
ここまで、年金からどのような金額が差し引かれ、実際の手取り額がどのくらいになるのかを見てきました。では、年金の手取り額を少しでも増やすにはどうすればよいのでしょうか。
- 控除を活用する
公的年金等控除や基礎控除、配偶者控除など、適用できる控除はできるだけ活用しましょう。特に配偶者がいる場合は、配偶者控除が適用されることで税負担が軽減される可能性があります。
ひとり親・寡婦・障害者の方は合計所得135万円(公的年金のみで245万円(65歳未満は約216万円))以下まで住民税が0円になります。該当する方は、住民税の負担がなくなる可能性があります。
- 確定申告を活用する
年金から源泉徴収されている税額は、あくまで仮の金額です。確定申告をすることで、実際の税額との差額が還付されることがあります。
年金収入が400万円以下かつ他の所得が20万円以下の場合、源泉徴収されたままで特になにもしなければ課税関係は、それで終了します。しかし、医療費控除や寄附金控除など、適用できる控除がある場合は、確定申告をすることで税負担が軽減される可能性があります。
- 社会保険料の負担を確認する
介護保険料や国民健康保険料(または後期高齢者医療保険料)は自治体によって異なります。引っ越しを考える際は、これらの保険料の負担も考慮に入れると良いでしょう。
- 将来に向けた準備を進める
現役時代から、iDeCoやNISAなどの制度を活用して老後の資産形成を進めておくことも大切です。年金だけでなく、自分で準備した資産があると、老後の生活の幅が広がります。
iDeCoを年金として受け取る場合は、公的年金とiDeCoを合算した金額が年金収入になります。税制優遇が受けられるiDeCoは、老後の資産形成に効果的な方法の一つです。
手取り額の将来的な減少傾向にも注意
ここで注意しておきたいのは、年金の手取り額は年々減少傾向にあるという点です。額面年金収入300万円の手取り額は、1999年に290万円だったのが、2008年は265万円に減り、2023年はなんと253万円にまで減っています。24年間で金額では37万円、率して12%以上もの減少となっています。
これは社会保険料の上昇や税制改正などによるものですが、この傾向は今後も続く可能性があります。つまり、現時点での手取り額の計算結果が、将来も同じとは限らないのです。
そのため、老後の生活設計を考える際は、年金の手取り額が減少する可能性も考慮に入れておく必要があるでしょう。具体的には、支出を抑える工夫をしておくことや、年金以外の収入源を確保しておくことなどが考えられます。
まとめ:年金の手取り額を正しく理解して、老後に備える
年金の手取り額について、計算方法や具体例を交えて詳しく解説してきました。ねんきん定期便などに記載されている年金の支給額と、実際に手元に残る手取り額には差があることを理解しておくことが大切です。
手取り額の計算式を簡単にまとめると、次のようになります。
手取り額 = 年金の支給額 - (所得税 + 復興特別所得税 + 住民税 + 介護保険料 + 国民健康保険料または後期高齢者医療保険料)
具体的な金額は、年金収入の額や家族構成、居住地などによって異なりますが、一般的には年金収入の約10〜15%程度が差し引かれる計算になります。
また、年金の手取り額は年々減少傾向にあるため、老後の生活設計を考える際は、この点も考慮に入れておく必要があります。
老後の生活を安心して送るためには、年金に全面的に頼るのではなく、現役時代からiDeCoやNISAなどを活用して自分自身で資産形成を進めておくことも大切です。また、年金生活になってからも、収入と支出のバランスを意識した家計管理を心がけることが重要です。
年金の手取り額を正しく理解し、適切な準備を進めることで、将来の不安を少しでも減らし、充実した老後生活を送れるよう、今から少しずつ行動していきましょう。
この記事が、あなたの老後の生活設計に少しでも役立てば幸いです。
コメント